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『生きていくということの“尊さ”と“醜さ”を感じたい人に読んでほしい「サラバ!」』

 今回ご紹介するのは、2015年に第152回直木三十五賞を受賞した西加奈子さんの「サラバ!」です。

 ページをめくるごとに、まるで自分もこの物語の登場人物の一人になったかのような錯覚に陥る西加奈子ワールド前回のこの作品。

 是非、あなたにもその魅力を感じて欲しいと思います。

 

●舞台はイラン、日本、エジプト、そして日本

 「僕はこの世界に、左足から登場した。」という印象的な一文から始まるこの作品。

 この世界に左足から登場した人物こそ、この物語の主人公、圷歩(あくつあゆむ)です。

 歩は、父親の仕事の赴任先イランで誕生します。

 長身で痩せていてほとんど目立った印象のない父親・憲太郎、赴任先の公用語も、英語もまったく話すこともできず母親の人生のほとんどを直感で生きている母・奈緒子、そして家族が頭を抱える存在である歩の猟奇的な姉・貴子。

 歩はことあるごとに母・奈緒子vs姉・貴子のバトルに巻き込まれ、時に母から姉に対する愚痴を聞かされ、姉からは母に対する増悪を聞かされる日々を過ごします。

 しかし、日本から遠く離れたイランの地で圷家の人たちは幸せな日々を過ごしていたのです。

 ある事件が起こるまでは…。

 

●キーワードは、「ご神木」、「矢田のおばちゃん」、「マイノリティ」、「キミハヒワイダトッ!」、「精神的ホモセクシュアル」、「サトラコヲモンサマ」、「阪神淡路大震災」、「ウズマキ」、「すくいぬし」、そして「サラバ!

 ちょっと、書き過ぎました…(笑)。

 しかし上記した、このたくさんのキーワードが主人公・歩の人生に大きく関わってくることになってくるのがこの物語の醍醐味なんです!

 この物語で主人公たち家族は、父親の仕事上の関係でイラン、エジプト、日本を転々とすることになります。

 なかでも一番大切なのは、やはりこの物語のタイトルにもなっている「サラバ!」です。

 これは、エジプトはカイロ・ザマレク地区に住んでいた歩にできた現地での友人・ヤコブと二人だけの内緒の言葉です。

 「さよなら」は、アラビア語で「マッサラーマ」。

 歩はふざけて日本語の「サラバ」と組み合わせて、「マッサラーバ!」と言い出します。

 しかし何故かヤコブは、「サラバ」という言葉をいたく気に入りそれは二人にしか分からない言葉、単純に別れだけを表す言葉ではなく、キラキラし輝かしい可能性を孕んだ言葉となっていきました。

 この言葉が、物語の終盤に大きな意味を持ってくるのでお忘れなく。

 くせのある家族に囲まれ、激動ともいえる人生を歩んでいく歩。

 そんな歩の一人の男性として成長や堕落を自叙伝のような形で描いたこの作品。

 読み終わった後、自身のアイデンティティやマイノリティに影響を与えてくれること間違いなしです。

 是非、手に取ってみてほしい作品です!

 

●もう1つの魅力

 また、この本の著者・西加奈子さんご自身がイラン・テヘラン市生まれ、大阪府育ちということもあり、海外での生活の描写や作中の関西弁のやりとりが面白いのも本作品の魅力の一つだと思います。

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